歴史・系統・略称について(その2)


●古生物学的バラから歴史の出発点まで

バラ属(Rosa属;変な意味ではない)の始まりは7千万年前、白亜紀末になるそうです。つまり恐竜たちが衰退しつつもまだ生存していた時代には、今の原種バラの元かその傍流にあたる種があったことになります。恐竜の足元にバラが・・・と思うと違和感があるかもしれませんが、単純に恐竜が生存していた時代の末期に、バラを含む被子植物というグループが分岐したので、他の種の分岐と同じようにバラ属が分岐したのではないでしょうか(被子植物の種は白亜紀末・第三紀には現存の種{かまたはそれに近い種}の90%が揃っていたそうです)。またバラの原種が北半球のみに存在し、中近東からヨーロッパにかけて乾燥に強い品種が多く、中国・東アジアに湿潤に適した品種が多いことから、ヒマラヤ山系のどこかで生まれたのではないかと考えられているそうです。

なお、この各地に拡散していくことで各々のバラが獲得した性質は、一季咲きが主だったヨーロッパにおいて、四季咲き性や房咲き性の獲得、花の大輪化等のバラの品種改良に大きな影響を与えます。

現在バラ属の原種・野生種と呼ばれる種は100を上回るほどあるそうですが、園芸品種のバラへの改良に用いられたのはほんの一握りしかありません。特にヨーロッパにおける野バラともいえるロサ・カニーナやロサ・フェニキア、ロサ・モスカータその他の中近東・ヨーロッパを原産とする基本種のバラの自然交雑・人為的な選別を経て、ロサ・ガリカ、ロサ・ダマスセナ、ロサ・アルバ、ロサ・センティフォリアなどのバラの歴史の初期を彩る原種が生まれました。これらのバラに共通することはその香りの強さです。おそらく人との関わりの初期では香りが人を魅了したのではないかと思われます。実際史実に表れるころには、バラ水やバラ油等の香料採取を目的とした栽培が行われていたそうです。香料採取には花弁数が多い方がいいようですし、ロサ・ガリカの基本種やロサ・カニーナその他の地域の基本種のバラも五枚花弁の一重咲きが多いことから、香料採取を目的として花弁の多いバラが選別されていき、その過程で美しさが注目されるようになったのではないかと思います。


●バラ史の転換点(ジョゼフィーヌの登場)

バラが人の歴史上始めて表れるのはメソポタミア文明の「ギルガメッシュ叙事詩」になるそうで、バラの棘について触れているそうです。先に述べたバラ水・バラ油などの香料採取を目的とした栽培は、この時代にはもう始まっていたようです。ただこの当時は、先にあげた4種の変異種・交配種で主に一季咲きでした。一年に一回しか採れない香料は当然貴重ですから、必然的に王侯貴族や宗教関係に限られ、まだバラが一般に広まるまでにはいたってなかったようです。一般に広まり始めるには国情が落ち着き、生活に安定が訪れはじめる9世紀カール大帝の治世になってからだそうです。別項で取り上げますが、バラの歴史は宗教・戦争など人の歴史に影響されており、これらを抜きには語れないところがあります。

当時のバラの品種はまだ枝代わりと自然交配に依存しており、先にあげた4種を複雑に交配することで新しい品種を生み出していたようです。ここに人工交配や四季咲き性の導入などのバラ史の転換期が訪れるには「バラのパトロン」と呼ばれるナポレオン后妃のジョゼフィーヌの登場を待つことになります。

植物好きのジョゼフィーヌは世界各地からバラを含め様々な植物を集めさせ、バラに関しては300種を超えたそうです。そして最大の功績は居城であるマルメゾン宮殿に当時有名な植物研究家を集めさせ研究の援助を行ったことでした。その援助の下、園芸家のデュポンは今までは自然交配に任せるしかなかったバラの交配を人為的に行う手法を見つけだし、また様々な地域のバラの性質を取り込むことでバラの品種改良は一気に発展を遂げたそうです。この当時どのような品種があったなどは、当時隆盛していた植物画などに見ることができます。完成度の高さで植物画の第一人者となったルドゥテは、ジョゼフィーヌの依頼と援助の下に描かれた「バラ図譜」で、中国から渡ったチャイナローズやセンチフォリアの変異種など当時マルメゾン宮殿にあったと思われる様々なバラを描いています。


●四季咲き性の獲得とモダンローズへの道

ヒマラヤ山系のどこかで派生し、生息域を西に展開したバラたちは、一年に一度だけの開花ではあったもののその香りと花の美しさで人の歴史に影響し、影響される存在となりました。一方で東側に展開していったバラたちは、西側とは異なる形質を獲得していました。

主にヨーロッパ・中近東生息のバラたちはシュラブと呼ばれる半つる状の樹形のものが多く、ダマスク香をもち、一年に春のみ花をつける一季咲きでした。これに対し中国原産のバラのうちロサ・キネンシスは、別名長春花とも呼ばれ年中花をつける四季咲き性をもっており樹形は木立性、またロサ・ギガンティアは大輪花で花弁の外側が反る剣弁咲きの性質とお茶のようなティー香をもっていました。この二つのバラの持つ性質は後のティーローズやハイブリット・ティーへの改良に大きく関与していきます。

ヨーロッパで中国産のバラが最初に紹介されたときはこれら2品種の交配種とも考えられる品種を含めた4種のバラたちでした。そのバラたちは、それぞれ紹介者の名前を冠しヒュームズ・ブラッシュ・ティー・センティッド・チャイナ、パークス・イエローティー・センティッド・チャイナ、スレイターズ・クリムゾン・チャイナ、パーソンズ・ピンク・チャイナという4種で、これらのバラはルドゥテの「バラ図譜」にも描かれています。









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